セミナー情報

第45回ICTE情報教育セミナー in 名古屋
―新学習指導要領の告示を受けて―

平成21(2009)年6月13日(土) 13:00-17:00
会場:椙山女学園大学星が丘キャンパス

研究会の様子

13:00- 開会挨拶
  生田孝至(新潟大学理事・副学長)
13:15-14:45 何を変えるために,学習指導要領は変わったのか
        ―新学習指導要領から眺めるこれから10年の情報教育―

  江守恒明(関西大学特別任用教諭)
  小原格(東京都立町田高等学校教諭)
  奥村稔(北海道札幌北高等学校教諭)
司会:田邊則彦(関西大学特別任用教諭)
平成21年3月9日に告示された高等学校の新学習指導要領を受け,3名の先生から,情報科の新しい内容や目指す方向性について語っていただいた。 全体的な話を江守先生から,「社会と情報」の話を小原先生から,「情報の科学」の話を奥村先生からお話しいただき,最後に会場からの質問を受け議論を深めた。

―『新学習指導要領が目指すもの』江守恒明
○情報科の改訂で変わらないもの
・必履修
・情報教育の目標の3観点
○変わるものとしては,
・新科目と情報A
・情報モラルの重点指導
・習得→活用→探求,主体的に対応できる能力と態度の育成
・実習時間の縛りがなくなった。
○情報モラル教育について
・小・中・高の総則にも入ってきている。
・発達段階に応じた情報モラル教育が必要

―『「社会と情報」を考える』小原格
○ポイント
・ベースは「情報C」!
・主従関係が変わった「コンピュータをどう使うか」から「コミュニケーションをどうするか」へ
・「情報モラル」が大きく意識された。法規も含めて扱うことが明記
・主体的に考え,討議し,発表しあう
○具体的には…
・「情報とメディアの特徴」
・「コミュニケーション手段の発達」
・問題解決
・実習の3つのやり方
 -体験的な実習
 -調べ学習的な実習(中心になる?)
 -課題制作・問題解決的な「実習」
○まとめ
・情報,メディア,コミュニケーション,問題解決に関する知識が必要。
・操作だけを教えれば良い時代の終わり。
・生徒の「情報格差」への懸念。
・どのような形で「実習」「発表」を構成するか。

―『明快!「情報の科学」の心』奥村稔
○「情報の科学」応援団です!
・科学は理系で,社会は文系というのは分かりやすいけど…,そうではないはず。
・科学の理解が物事の理解の基となるべきでは。
○情報技術教育や,情報社会教育,情報科学教育,情報検定教育,これらとは,情報教科教育はわけて考えられるべき。
○情報の科学の中心は問題解決!
・現行の学習指導要領ではコンピュータを使って問題解決としか書いてないが,明らかに足場がネットワークになってきている。
・コンピュータと情報通信ネットワークの理解が基盤となり,その上にコンピュータを用いた問題解決,ネットワークを用いた問題解決並列。情報モラルはその都度やれば良いと思う。
○骨太の情報科を提唱します! 理解→習得→探求
・第1章 情報を理解する(ディジタル化・ネットワークなど)
・第2章 情報を活かす(課題解決のための基本)
・第3章 情報を読み解く(メディアリテラシー)
・第4章 情報と暮らす(情報モラル)
○問題解決の体系化
○問題の設定が肝






―Q&A
Q:骨太の情報科」は興味ある考え方だと思う。今回の改訂はこれに至る過程か?これをどこかに大きく発表することはしないか?
奥村先生:今回の改訂はホップ,ステップ,ジャンプのステップと言われている。そんなに変わらないということ。発表はできればWebで公開していきたい。

Q:どこまで踏み込むかによるが,「ディジタル」の概念や「ネットワーク」の仕組み,まして「プロトコル」は問題解決(情報の目的?)のために知るべきことか。
奥村先生:当然知るべきこと。問題解決をどうとらえるかによる。問題解決を目的にしないで,柔軟に。

Q:「情報」の定義は何か。コンピュータが扱えない情報はどうなるのか。
小原先生:情報の特徴ということを切り口にして,生徒達に理解させていく授業がメインとなるのではないか。コンピュータで扱える,扱えないというのとは違う次元となるのかな,とは思うが,それも一つの切り口としてはある。

Q:法律は具体的に何を指している?
小原先生:著作権法,個人情報保護法,不正アクセス禁止法とか,その辺りになるのかなと思う。解説が出た段階で何が書かれるか。

Q:問題解決は「コピペのすすめ」にならないか。
小原先生:問題解決ということだけで考えたら,「情報の科学」がやりやすいかもしれない。手法がはっきしている。「社会と情報」で問題解決をやるのは大変かもしれないが,独立してやらなければいけないということはないと思う。問題設定をいかに行うかが重要だと思う。問題設定と解決方法でどこを落としどころにするかは先生の腕の見せ所。問題解決にたくさん取り込まなければならないということではないと思う。

Q:情報モラル教育の各教科での実践が言われている中で,教科「情報」としての情報モラル教育が他教科での情報モラル教育と差別化がなされなければ,教科「情報」の存在を否定されかねないのではないか。教科「情報」としての情報モラル教育のあり方についてのお考えがあればお教え頂きたい。
江守先生:「探求」の部分を追求していきたい。例えば,「今から5分映像を流す。そこにある著作物を探してください」という設定をする。法令をそのまま触れるわけではなくて,制作者に対する権利などを意識させる。社会への還元や参加を考えさせることができる。便利なシステムの後ろで動いている仕組みの部分や,匿名性の功罪やそういったところで考えさせることもできる。

Q:中学校まで操作はしっかりやってくる。高校ではどんな子があがってくる?
江守先生:実は,小学校はかなり厚くなったのだけど,中学校では薄くなっている気もする。スキルは小学校でやってくると思う。それを教える必要はないと思う。どうやって編集をして,どうやって発信できるか。発信に重きが置かれているように思う。発信した結果,どういった拡がりを持っているのか。
15:00~17:00 ワークショップ1
  賛成?反対?「情報」大学入試,ペーパーテストからプレゼン入試まで,
  情報関連入試に現場はどう応じるか

コーディネータ:寺嶋浩介(長崎大学准教授)
○アクティビティ1 グループ作りと授業紹介
・4人グループが3つ作られた。
・各グループで自己紹介し,これまで情報科の授業でどのようなことに力点を置いてきたか紹介した。

○アクティビティ2 問題分析 
・資料として,情報科関連の入試問題が6種類用意された(問題A~G)。入試問題について,各グループで次の課題に取り組んだ。
 -それぞれの問題の内容が,新学習指導要領のどの部分に対応しているかを検討しよう。
 -それぞれの問題で要求される「学力」を,「~についての~力」「~を~する力」など,端的に表現しよう。
・寺嶋先生:出題者がどのような意図で出題しているのかを考えるのが重要である。
・問題の中から,各グループで分析する問題を選んで分析を行った。
・分析した内容について,グループ内で共有した。

○アクティビティ3 グループでの問題決定 
・各グループで,対策をしなければならない問題を1つ選んだ。その際,各グループの先生方の学校で,一番実施されていない領域に対応する問題を選んだ。

○アクティビティ4 入試問題への対策
・選んだ問題への対策として,どのような学習活動を展開すればよいか,各グループで検討した。

○アクティビティ5 各グループの発表
グループ1:問題D
・科目:「社会と情報」「情報の科学」のどちらでもよい。
・実施学年:1~3年のいずれかの学年で,通年実施する。
・学習内容:新学習指導要領(1)ウを指導する形で,プレゼンテーションをさせる。生徒間で相互評価をさせる。
・評価:テーマを設定して,自分が出したものと評価をかみ合わせる。プレゼンテーションやレポート提出。テストは実施しない。レポートの評価の観点:資料の内容,出所,論理性,文面,自分の主張

グループ2:問題F
・科目:「情報の科学」問題解決,アルゴリズムを扱う単元で。
・実施学年:1年か2年
・学習内容:条件分岐をイメージ化するなどして,生徒に実感・体験させる。数学Aのツリー構造が既習であったり,国語で読解力が身につけられていたりするとよい。
・評価:テストで,文章や行動などをフローチャートで表現させたり,フローチャートで表現されたものを実際の行動や文章で表現させたりする。

グループ3:問題C
・科目:「社会と情報」
・実施学年:2年
・学習内容:新学習指導要領の(1)ウに関連して,小中学校の授業で情報機器を活用した事例を生徒に挙げさせる。社会が情報化している事例を題材に扱う。ソフトウェアの知識も学習する。
・他教科との関連:どれだけ情報機器が活用されているか。
・評価:ソフトウェアの活用,プレゼンテーション

○アクティビティ6 フリーディスカッション
・「こんな問題がほしい」というテーマで,各グループでディスカッションをした。
・出された意見:問題Cのような問題は対策を立て難い。多くの大学でこのような問題が出題されれば,対策も立てられるようになるかもしれない。




15:00-17:00 ワークショップ2   「ケータイ持込禁止」報道から考える“メディア・リテラシー”
講師:田島暁(元中日新聞論説主幹,名古屋大学客員教授)
    渡邊純子(株式会社コドモット)
コーディネータ:田邊則彦(関西大学特別任用教諭)
このワークショップでは,子どもとケータイに関して書かれた新聞記事を見ながら,その新聞記事の意図などを話し合った。

最初に,企業の子ども向けWebページ,CSR活動などのコンサルティングを行っている渡邉氏が,ケータイと子どもの関係について統計資料などを交えながら説明した。
渡邉氏は,子どものケータイの所持率,利用目的,利用シーンなどを示し,高校生では夜の利用が増えることや,ブログやプロフなど自分を表現する目的での使用が増えることを説明。 「今の中学校3年生が5歳だった1999年は,ケータイの普及率が7割に迫る。彼らにとっては,ケータイやネットのない時代は歴史上の出来事となっている。当然,親世代とのギャップがある」と指摘した。
また,ネットとケータイは異なる属性を持っていることに触れ,そのため,「ケータイによるネット利用はネットの中でも特異な状況にある」と説明した。
参考として,インターネット上の情報のマイナスの特徴,それによって発生した事例などを紹介。
「ケータイのない社会には戻れないのだから,望ましい使い方の合意を作っていくことが大切。教育は大きな役割を負うと思う。」とまとめた。

次に,グループに分かれて,子どもとケータイについて書かれた複数の新聞記事を読み,各記事がどういう意図で,誰に向けて,何を訴えているのかということを考えながら,話し合い,疑問点があればその都度田島先生に質問した。
各グループ,活発な意見交換が行われ,田島先生にも質問が相次いだ。

話し合いの後,グループごとのまとめの発表が行われた。
あるグループからは, 「記事は主観に基づいて書かれている可能性もあり,鵜呑みにするのは危険。 メディアが世論を作っているという側面があり,各メディアが一斉に報道することによって世の中もそういう方向になっていくという話になった。 ネットを使うことによって,実際の裏づけがないまま,さらに情報が広まりヒートアップしていき増えていくということもあるかもしれない。 ケータイのことについても,一斉に記事が出てニュースになることで,世論が作られているのでは。」 との発表があった。

最後に,田島先生から, 「新聞の一番の使命は正確な情報を伝達することであり,確かな取材で裏をとったニュースを提供してくこと」とお話があった。