セミナー情報

第48回ICTE情報教育セミナー in 早稲田

平成22(2010)年5月23日(日) 10:00-17:00
会場:早稲田大学西早稲田キャンパス

研究会の様子

10:10-10:30 開会挨拶
   水越敏行(大阪大学名誉教授)/黒上晴夫(関西大学教授)
10:30-12:00 ついに出た!新学習指導要領解説! ―よってたかって「解説の解説」―
コーディネータ:黒上晴夫(関西大学教授)
このセッションでは,今年1月に告示された『新学習指導要領解説 情報編』から事前に先生方の「気になるキーワード」をお聞かせいただき,その結果から6つのキーワードに絞って,複数の講師がそれぞれの視点で解説を試みた。

(1)生徒が主体的に考え討議し発表し合う活動
○江守恒明(関西大学中・高等部教諭)
「討議し発表する」というのは高度なこと。今,中学生に「話す技術」として「シンキングツール」というものを使って授業をしている。話すサポートになるようなものを用意すると,自分の言葉で話す活動ができる。話しやすいように準備をしてあげることが必要。あとは,資料収集等の時間も設ける。そういうことをして,初めて討議までいける。

○大貫和則(茗溪学園中学校・高等学校教諭)
方法論を教えてあげることが大切。実習例としては,広告を研究する。方法論は指定するが,内容は任せる。17歳の卒業論文というのをしていて,それも個人研究。情報科も個人研究のサポートをする。それぞれが課題を見つけていかないと,中々主体的になってくれない。討議については,一つのことに対して色々な味方があることが大切。ぶつかり合いをわざと起こさせて,色々な意見を引き出す。

○寺嶋浩介(長崎大学大学院准教授)
「何について」,「どのように」,という2つのポイントがあると思う。結論を言うと,「何について」ということは書いてあるが,具体的に「どのように」やるのかということには触れられていない。どう行うのか,というのは,情報を収集整理し,討議し,発表するということはわかるが,アンケートをとるのか,文書なのか等色々ある。主体的に考えなさい,と言っても中々できないと思うので,生徒を見て,どういう情報を与えればいいか,サポートが必要。

黒上:「発表し合う」というのは造語だと思う。新しい言葉にはそれなりに意味がある。「発表する」というのではない。今,この状態は「発表し合っていない」。発表した後に,どうするかということがある。そこをコーディネートしなければならない。

(2)問題解決
○奥村稔(北海道札幌北高等学校教諭)
「情報の科学」と「社会と情報」という二つの科目の中でどういう風に扱うか図をかいた。「情報の科学」は,論理的な処理手順や自動実行があり,モデル化とシミュレーションがあり,だんだん,「社会と情報」に近づいていって,ネットワークでの解決,仮説,検証等がある。二つの科目で色分けができると思っている。問題解決のための手法が根底にはある。それをきちんと抑えたい。

○辰己丈夫(東京農工大学准教授)
問題解決に使える手法の「知識」としては,データベース,チャットの利用,モデル化,シミュレーション,統計的な解析,日常的な問題解決を抽象化できるか,など。解決案の評価のところで,人数,費用,手間,エコロジー,大変さ,感情などを比較することが入るだろう。そのときにグラフのリテラシーがたいせつ。「伝えたいことを正確に伝えられるグラフ」を作ることが,「情報の科学」におけるメディアリテラシー。グラフを見抜ける力も欲しい。

○黒上晴夫
解決できなければ意味がない。情報手段を使いながら,その使い方を考えられるようにしたい。解決するためには,答えが一つしかないものはまずくて,色々な中から自分の道筋を決められるものがいい。しかし,そういう問題の設定は難しく,だから教科書は苦労しているのだろう。しかし,プロシージャ,問題解決のメタ認知みたいなものは必要だろう。

(3)評価
○奥村稔
評価の仕方で,相互評価を成績に取り入れる学校もあるが,自覚的にやらないととんでもないことになる。生徒の相互評価が,客観的かということがある。生徒の評価が,客観的になればなるほど,先生に近づくわけだから,じゃあ生徒の評価を入れる必要はない。生徒の相互評価は,具体的に生徒通しで提案できるようになればいいと思う。観点別評価では,5月11日,文部科学省より,指導要録の改善等について通知が出た。それによると,「関心・意欲・態度」「思考・判断・表現」「技能」「知識・理解」の四観点となっている。

○黒上晴夫
観点別評価については,「表現」は成り上がったと思っていて,次元の低いものが「知識・理解」で,「表現」が上にきて,高次な認知過程と捉えるようになったと僕は思っている。それぞれをどうはかるかというときに,「技能」についてははかれる,「知識・理解」もはかれる。「思考・判断・表現」は,はかりにくい。長文をかかせたり発表させたりパフォーマンスを見るのが大事。覚えていることをどういう風に適切に使うかという活用にも絡んでくると思う。パフォーマンス評価がどこまで客観的にできるかということが大切。どう評価するかという観点ではなく,どう子どもたちの能力を高めることができるか,という方向になるといいと思う。

(4)情報,メディア,コミュニケーション
○江守恒明
総合実習ですべてカバーしようという提案をしたい。映像制作を行っている。3ヶ月という長いスパンがかかるのだけれど,生徒は作ることに対して,調査もする,そのためにはメディアを使う。もちろん,この前にメディアはこういうものと説明しているが,実際に使うのは総合実習でできる。制作段階に入る前にコミュニケーション,役割分担なども必要になる。最後に,発表するときにどういう形でやればいいかということを考えていける。

○大貫和則
「情報リテラシー」というと,日本ではコンピュータを使えるかという意味だが,アメリカでは図書館情報学からきていて,私としてはここではアメリカの方の意味。わたしは本もネットも使う。統計リテラシーというのは大事。今はアンケート調査実習というのを入れている。新聞記事の読み解きもさせている。「メディアリテラシー」で,映像を作ることもしている。1分のドラマを18時間かけて作る。映像の文法を勉強した上で,実際に制作する。作るということ,(広告を)読むということ,当然伝えるということも大切。

○中橋 雄(武蔵大学准教授)
「メディア」という言葉について。「メディア」というとDVD-Rを意味したりもするが,記録媒体という意味だけではない。多様な意味である「メディア」をおさえるということは,指導要領にも入っている。送り手と受け手の間にあるということでメディアと言う。社会システム自体をメディアと呼ぶこともできる。インターネットもメディア。エンコーディング・デコーディングということがあるが,ここには,意味の記号化,意味の復号ということが入ってくる。しかし,これは誤差が生じることがある。誹謗中傷の判断基準が違う等のことがある。メディア制作実習では多様な要素が絡んできている。

黒上:コミュニケーションは難しい言葉。社会と科学で違うという気もする。「メディア」は社会の方でしか出てきていない。解説では,限定的な意味でしか書かれていない。中橋先生が仰ったように捉えていくことが大切。社会的な中でコミュニケーションというものが捉えられてきている。本当は「情報の科学」でも積極的に扱っていくと良いと思う。

(5)ネットワークの仕組み(トポロジー・プロトコルの階層性)
○能城茂雄(東京都立上野高等学校主任教諭)
「情報通信ネットワークの仕組み」とは何かということを,解説から抜き出すと,電子メールやWebサイトなどの「インターネットの基本的な仕組み」や,ルータ・HUB・LANの形態,通信の取り決めなど「情報通信ネットワークに接続するには」というようなことがある。これらは「情報の科学」だけでなく「社会と情報」でも必要なこと。特に「情報の科学」では,TCP/IPがなぜ階層性なのかということ等を理解する必要がある。

○大貫和則
「社会と情報」を見たときに,これくらいは知っておいて欲しいと思うところは,例えば,「http」と「https」の違い。これは理解させる必要がある。技術と社会と人というのを結びつけて,考えなければいけないと思う。携帯電話で,現在位置から終電情報等を自動的に配信してくれるサービス等が出てきているが,自分の情報を与えることに対して,どうなのかな,と考えられるようにしたい。

○辰己丈夫
色々なサービスが出てきた。その一つ一つがどういう仕組みになっているかの説明は必要ない。個々に教えなくて,かつ分かるというのが必要だと思う。特徴を抽象化・パターン化して考える力を大事にしなければいけないと思う。それが学んだことがないサービス・メディアにも対応できるような「底力」を養うことになるのではないか。

(5)合意形成とネットワーク
○奥村稔
wikiを使って「高校生で国際会議をやろう」という企画書を作らせている。グループをwikiで作らせているのだけれど,意志を決定しようというのがグループ形成の意味。最後に,プレゼンテーションという形でグループ全員に伝えていく。合意形成の難しさと,人に理解してもらうことの難しさ。wikiは,種類が色々あるので,授業の趣旨にあったものもあるだろう。

○黒田 卓(富山大学教授)
今ずっと話を聞いていて,「情報」というのは,先生が前でずっと授業をしているということだけではだめなのだと感じた。背景としてはPISA型学力というのがあるのではないか。これは色んな教科でやらなければならないことだが,情報に押し付けられている感もある。要は,授業を変えていく必要があるだろう。Problem Based Learning。その中で,合意形成をするためには,どういう課題を設定するかということが大きな一つの問題で,難しい。今までの取り組み事例を参考にしながら,やっていくことはできるだろうと思う。

○黒上晴夫
合意形成というのはとても難しい。そもそも皆が同じことを考えているのであれば,合意形成は必要ない。よく,PPTは資料を作って終わりという授業があるが,あれは発表までしなければ意味がない。それと同じで,合意形成も合意しただけで終わってはだめで,その後実行して,何かが変わることとつなげてあげないと,合意の必要がない。どことつなげるかということを考えなければならない。どうやったら合意形成できるのかというプロセスを考えさせることも大事。そのためにも色々なツールを使いつつ,どういう風にそれが抽象化されていくかが,必要。


―Q&A
Q:問題解決のアプローチ,資料9ページは,直線的な問題解決を意識している。しかし現在は複雑系で絡み合っている。そういう要素を入れていかないと難しいかな,と思うが。
黒上先生:手順を学ぶという意味では,あまり大きなことを伝えるのは大変かな,と。問題解決にもいくつかの段階がある。入門では,簡単なものからだろう。


13:00-14:45 ポスターセッション
        教科「情報」2009年度の実践から!
磯崎喜則(日本学園中学校・高等学校教諭)
「高校情報教育の中のデザイン教育の可能性」

五十嵐誠(神奈川県立横浜清陵総合高等学校教諭)
「「キャリア教育」の実践とそれを支える「情報の授業」と「ICT環境」」

諏訪間雅行(神奈川県立湘南台高等学校教諭)
「情報デザインの手法を取り入れた,高校「情報」の実践」

谷川佳隆(千葉県立船橋豊富高等学校教諭)
「高大連携の一例」

長尾 尚(大阪信愛女学院短期大学准教授)
「教科「情報」に備えて実施した「授業公開キャラバン」を振り返って」

長澤昇一(埼玉県立北本高等学校教諭)
「教科情報の授業開き ~「自己紹介」と「パズル」を通じて情報を学ぶ意義を考える~」

西澤廣人(埼玉県立芸術総合高等学校教諭)
「その気にさせる状況設定」

能城茂雄(東京都立上野高等学校主任教諭)
「授業力向上を目指して ~東京教師道場の実践を通じて~」

福島 毅(千葉県立東葛飾高等学校教諭)
「今必要な「対話する力」を育てるのに,情報科としてできること」

若林庸夫(神奈川県立海洋科学高等学校教諭)
「スパゲティカンチレバーの実践 ~思考や発想をどのように具体化するか~」





ポスターセッションまとめ
田邊則彦(関西大学初等部教諭)
「発表者とオーディエンスが話しながら色々なアイディアが湧き出てくるのがポスターセッションの良さではないかと思う。先生方が熱心に情報交換されている様子を見ると,我々だけでなく子どもたちにポスターセッションの魅力を伝えていく方向もあると思う。今回キャリアデザインやデザイン,高大連携,大学とのつながり,という話があり,情報の授業だけでなく授業を良くするための色々なコメントがいただけた」

江守恒明
「素晴らしいポスターセッションになったと思う。昨年は全部一緒に行ったので,今年は半々に分けて良かった。話したい人は聞きたい人のはず。沢山の感動とネタを頂戴した。 知識を教えようなんていう実践はひとつもない。生徒が主体的にできる場面,そういうものがすべて入っていた」
15:00-17:00 ワークショップ1
  体験から実践へ!情報の科学的な理解を楽しく学ぶ
  コンピュータサイエンスアンプラグド

コーディネータ:間辺広樹(神奈川県立秦野総合高等学校教諭)
         辰己丈夫(東京農工大学准教授)
はじめに,辰己先生より,「情報の科学的な理解はなぜ必要なのか?」というお話をいただいた。科学を,「観察によって対象をわかろうとする活動」ととらえ,現実の問題に対処していく基盤にあるもの,と話した。

その後,グループに分かれ,
・2進数
・パリティマジック
・ソーティングネットワーク
・みかんゲーム
・宝島ゲーム
などのワークショップを体験した。

間辺先生からは,実際にアンプラグドの授業を行う際のアドバイスがあった。
・すぐ教えたくなりがちだが,気付きを待つというのが大事。
・ゲームをやるだけではだめで,この活動をして,気持ちを前向きにしておいてから,「実はこれはね」,という形で本題に入っていくとよい。
・2進数のところで,カードで学んだ後,小テストを行ったら正答率が低かった。生徒の中では,それが「0」と「1」に対応していなかった。そこで,「0」と「1」のカードもつくったところ,小テストの正答率がぐんと上がった。学習内容と結びつけることが大切。
・『コンピュータサイエンスアンプラグド』の12章の中で,最初の4章が,教科書に書いてある内容が網羅できる活動になっていると思う。


15:00-17:00 ワークショップ2   著作権「保護」はわかるけど「活用」は?
 ―歴史的背景から知的財産を考える―

講師:大貫恵理子(著作権教育フォーラム代表)
コーディネータ:黒上晴夫(関西大学教授)
最初に,著作権の歴史的経緯のことに関してお話をいただいた。
その後,グループに分かれて,映像作品を学校のWebサイトに公開するという内容で,授業案を考えた。
・何をつくるか
・どのようにつくるか
・他人の著作物を混ぜ込む
・制作プロセスのどこで何を考えさせるか
・何を準備するか
・制作以外にどのような活動をさせると,各プロセスがつながってくるのか

各グループからは,音楽の利用を想定して,JASRAQへの申請を体験させる,図書館所蔵のビデオの版元に許諾を求めさせる,などの発表があった。

Q&A
Q:「主張がなければよい作品はできない」に違和感がある。
A:定点観測のカメラ映像や,花をただ撮影した映像なら著作物性がないが,「それが美しいから」撮影された映像は著作物になる。

Q:ロイヤリティフリーの具体的な注意は?
A:商業利用はやめて,とかそういうことはきちんと書いてあるはず。これから自分がやることが該当しているのかどうか,きちんと読むことが重要。


17:00- 閉会挨拶
   黒上晴夫(関西大学教授)