セミナー情報

ICTE 情報教育セミナー みなとみらい
教科「情報」新科目におけるメディアの意味を考える

日時:平成23(2011)年7月29日(金) 13:00~16:30
会場:神奈川大学みなとみらいエクステンションセンター KUポートスクエア (クイーンズタワーA 14階)

研究会の様子

13:00 開会挨拶
  小林道夫(神奈川大学附属中・高等学校教諭)
13:10~14:20 実践発表 メディア・リテラシーを高める教材と実践
  中橋雄(武蔵大学 教授)

――子どもたちを取り巻くメディアの実情を踏まえ,中橋先生が監修された教材と,実際の教育現場でそれらがどのように活用されているのか,その実践例を見ながらメディア・リテラシー教育のあり方とその可能性をご紹介いただいた。


●子どもとメディアの関係

15~19歳の男女がテレビやインターネット,携帯電話などのメディアに,1日のうちどの程度接しているか,博報堂DYメディアパートナーズの調査結果によれば「6時間強」という数値があらわれてくる。この数値に世代による差は見られない。子どもたちも大人と変わらない時間をメディアと接する時間にあてている。これに街の看板や雑誌などを加えれば,子どもの生活とメディアは切っても切れない存在だといえる。

――中橋先生は,海外の景色や歴史上の人物などのイラストを提示し,生徒に見立てた参加者に質問をぶつけながら,人が無意識のうちにいかにメディアに拠って,そのイメージを形成しているかを目前に提示してみせた。


●メディア・リテラシーの必要性

子どもたちは「つぶやき」をツイッタ―に載せ,ユーチューブなどに自分で編集した映像を気軽にアップしている。それを不特定多数の人が閲覧している実情がある。そういう時代だからこそ,情報の送り手としての責任が問われるのではないか――。
前述のように,社会,すなわち人々の価値観はメディアと密接な関係にある。換言すれば,社会がどうあるべきかを考えるとき,メディアの果たす役割はとても大きい。
「メディア・リテラシー」とは,豊かな社会を築くための能力であり,メディア・リテラシーを理解できれば,ライフスタイルは変わるし,コミュニケーションも変わる。そして,社会のあり方も変わってくると考える。どのような内容を発信すれば「豊かな社会」になるか,そのためにどのような教育をしていくべきなのか。そこにメディア・リテラシーの教育的意義があるのではないかと思う。

現在,多くの「情報」教材が世に出ている。それらをどのように活用すべきか,わたしがこれまで監修してきた教材などから,その実践例を紹介する。
まず教材として活用したいのが,総務省のサイトにある「放送分野におけるメディアリテラシー」,それにNHKの「10min.ボックス 情報・メディア」,最後にわたしが監修したNHK「ネットビギナーズ」の3つ。
まず,総務省のサイトには「放送記者坂井マヤ」「映像不思議シミュレーター」などのコーナーがあり,情報の送り手としての意図を体感できるようになっている。次にNHKの「10minボックス」は最新の技術なども取り上げており非常に参考になる。そして「ネットビギナーズ」には,掲示板をはじめ,ケータイ小説を模したコンテンツなどが多数用意され,さまざまなメディアの特性を体感できる内容になっている。
これらを使うことによって,生徒は情報の送り手には意図があり,メディアで伝える情報には「限界」があることを学べるようになっている。活用次第で,授業の幅は広がるし,視覚(映像)に拠った授業はとても効果的でもある。
ただし,注意しなければならないのが,ただ教材を用いればいいということではない。大事なのはこれらを用いて教師側がどのような問題提起を行っていくかということ。生徒に「何を伝えるか」ということが活用の大前提で重要なポイントになってくる。



●宮城県・明成高等学校(岡本恭介教諭)における実践例

この学校では普通教室で授業がおこなわれるが,一人ひとりにノートPCが与えられ,普段は教室の後のロッカーで管理されている。岡本先生は生徒に身近なメディアであるCMを題材として取り上げ,メディアの必要性から制作者の意図,それをどのように受け取るべきかまでを理解させる授業を行った。
具体的にいくつかのCMを例に挙げ,映像や音楽,キャッチコピーなどをワークシートを用いて生徒に分析させる。そして,そのCMにどのような情報が盛り込まれているかを,生徒たちが対話しながら主体的に考えられる授業を進めていた。
生徒が自ら思考し,それを表現する――教師の「教える」という活動だけでなく,生徒が自ら活動する場をバランスよく提供しながら,主体的に学べるように配慮している。
「活動」「思考」「書く」「表現する」「操作する」という各要素を採り入れることがメディアを学ぶ授業として重要であることを再認識させてくれるよい見本といえる(詳しくは 『ICT・Education』No.47を)。






15:00~16:30 ワークショップ 生きた知財教育を行うための教材としての広告制作
  森棟(もりむね)隆一 (東京学芸大学附属高等学校 教諭)

――今回は,森棟先生が普段行われている「学校紹介CM制作(詳しくは 『ICT・Education』No.44)」の授業をワークショップ形式にてご紹介いただいた。
なお,動画制作にWindows ムービーメーカーを用い,90分という限られた時間のうち,前半70分でソフト操作を含めたCM制作づくりを,後半20分で「知的財産権」の視点から同授業の意義をご紹介いただいた(※参加していただいた先生方には事前に,勤務する学校の画像を5点ほど準備していただいた)。


●学校紹介CM制作の目的

「私はCM制作をメディア・リテラシーの教育であると同時に,それ以上の価値があるものとして研究しています。普段の授業では,グループワークや他者とのコミュニケーションを採り入れ『生きる力』を養うほか,言語能力やプレゼンテーション能力の養成など,さまざまな効果を狙えます。著作権や産業財産権などの『知的財産権』もからめて授業を行えるため,皆様の学校でも実践できるのではないかと思い,ご紹介させていただきます」。

当日の進行は次の通り。

▼前半70分(学校紹介CM制作)
 1.グループ(4人1組)
 2.設定説明
  (4人全員が新しく赴任した先生。学校の宣伝を行うという設定)
 3.アイデア出し:ブレーンストーミングにて
  (ここでは「学校の問題(課題)」を出す)
 4.ブレストで出たアイデアをもとにCMのキャッチフレーズを作成
 5. Windows ムービーメーカーを用いたCM制作
 6.学校紹介CM発表

▼後半20分
 知的財産権から見たCM制作



●授業を進めるためのヒント

▼ブレーンストーミングでは「イーゼルパッド」(3M社製)を使用。これは,画板サイズの台紙つきパッドで,ポストイットと同様に,1枚ずつはがして壁などに掲示できる。森棟先生は「高価だが便利」と実際の授業でも活用されている。
▼ソフト「Windows ムービーメーカー」操作方法の解説は13分と短時間で説明。実際の授業でも20分しか説明しない。すべてを教えても理解できない。細かい操作方法については「こうしたいがどうすればいいか……」と生徒にその必要が生じたときに適宜教えている。そのほうが効果的。そのため,授業でソフトについて教えるのは次の6点のみ。1.ソフトでできること(概要),2.映像,音楽,言葉の準備とその手順,3.画像や音を切ってつないで並べることができることの説明とその手順,4.ビデオと画像の処理方法,5.音声のバランス(音量)の処理,6.文字の画面挿入。これ以上細かいことは教えない。
▼CMの時間は,ワークショップでは20秒程度とおおまかな時間を設定。実際の授業では15秒などと厳密に指定したほうがいい。


●AIDMAの法則

CM制作をおこなううえで,生徒たちには「AIDMAの法則」を軸に考えるように指導している。「AIDMAの法則」は広告業界を中心に古くから用いられている考え方だが,現在でも十分に有用だと考える。CMをつくる際に,生徒たちの視点が,内容や表現自体に凝ることや,単なるおもしろさに偏ってしまいがちだが,大事なのは何のために,何を伝えるのか,そのためにどうするのかということ。生徒自ら検証する際に「AIDMAの法則」がよい基準となる。


●CM制作がもたらす効果

CM制作は手段であって目的ではない。この課題が果たす役割はたくさんあるが(詳細は上記『ICT・Education』),そのひとつに「知的財産」について着目するきっかけになってくれればいいと考えている。実際のCMづくりでは音楽を使用する際,著作権に直面する。当初,生徒自らがレコード会社などの関連組織に直接交渉していたが,生徒数が多く,先の会社より学校単位でまとめてほしいとの要望があり,今はまとめて交渉するようにしている。いずれにしても,この作業を通じて生徒たちは著作権が「やっかいなもの」という認識から「大事にしなければいけないもの」へと意識が変化する。制作者の立場を経験することで著作権者の気持ちも理解できるようになる効果もある。








16:30 開会挨拶
  小林道夫(神奈川大学附属中・高等学校教諭)